出張先にて
勇遊
定年後はじめた全国行脚の仕事も≒2年、その間に体験した旅先での出来事です。
１．夜の訪問者
出張先では駅のそば（徒歩20分以内）に宿泊するようにしている。移動に便利だし、夜遅く着いても探しやすい。岐阜に行ったときも、岐阜駅に近いビジネスホテルを予約した。受付にはしゃれた服装のホテルマンでは無く、普通のオバサンが座っていて現金前払いとのこと。支払ってキ−を貰った。受付は通常一階だがここは二階にある。エレベタ−は二階の受付を通らなくとも各部屋にいける。すなわち泊り客でなくとも部屋への出入りは自由に出来る。夜食を外でとっていつもの通り今日の仕事をまとめているとドアをノックする音。覗き穴から見ると、着物の女性が立っている。扉を半開きにして『なんですか〜』と顔を出すと『アッ！間違えました。スミマセン』と言って行ってしまった。２〜３時間してベットでウツラウツラしていると、またノックの音。覗いてみると派手な服装のお嬢さん。中から『なんですか〜』と聞くと『私よ〜○○ 来たわよ〜』と言う。『どなたをお尋ねですか？』と聞くと『××サン 開けてよ〜』結構酔っ払っている。顔を出すと『あれ！！違うわ』と言って『スミマセン』も言わずにヨロヨロ歩いて行った。それから1時間後今度は熟睡。激しいノックに目を覚ました。今度も女性。扉を開けて『いいかげんにしろ〜！！』と怒鳴るときょとんとして帰っていった。どうやらお盛んな人が次々と女性を誘って部屋の番号を間違えて教えたみたいだ。おかげでこちらは寝不足だ。
でも、一人くらい部屋に入れたほうが良かったかな？と後悔している。このホテルには二度と泊まらない。
２．ホテルに不要なもの
朝食券と電熱器の湯沸し。電熱器の湯沸しなんか面倒だから、絶対使わない。お湯をわざわざ沸かしてパックのお茶など飲まない。沸かしても量は少なくラ−メンも食べられるかどうか？だいたいどの水を沸かすのかわからない。例のシャワ−室兼トイレに行くと“この水は飲めます”などと書いてあると余計疑わしくなる。どこのホテルにも自販機がありここで飲み物は確保できる。朝食券はさらに不思議。チェックインすると『朝食は？』と聞かれる。食べないでは働けないので『お願いします』と言うと“朝食券”なるものを渡される。朝、それを持っていくとバイキングとかで、どのホテルもほとんど同じものが並んでいる。卵・納豆・おしんこ・のり・煮物・焼き物など・・・旨くも、まずくも無いなんとなく胃に押し込んで出発する。ある時この朝食券を忘れてしまった。『部屋に忘れた』と言っても“トレイ”をくれない。仕方がないので部屋に戻って、あっちこっち探してやっと見つけた。この間≒20分。食堂へ行くと行列が長くなっていてちっとも進まない。『エッ！そんなに食べるの？』と心配になるほどお皿に載せているオバサンがいたりする。腹が減ってイライラするが当たるところが無い。大体朝食券が何故必要か疑問だ。宿泊して朝食を食べない人などほとんどいない。たとえいたとして、これ等の人が間違えて食べたとしてもたかが知れている。どうせ安物が並んでいるだけなのだから。朝食券などという無駄なものはやめたらと思うが如何？
３．大浴場付ホテル
ビジネスホテルは味気ない。殺風景で狭く、ベットにしか居られない。私はネットでなるべく和風の旅館とか民宿を探すようにしている。ここだと風呂もあるし、朝夕食とも心配することは無い。しかもビジネスホテルより安い。ビジネスホテルでも大浴場付がある。地方には温泉付のビジネスホテルもあり、当たれば最高。
福島駅のそばに「大浴場あり、宿泊客は無料」と言うのがあった。シャワ−もあるが早速地下にあるという大浴場に行ってみた。戸をあけて浴槽を見ると誰もいない。こりゃ今日はくつろげるぞ〜と勇んで入った。湯船に使って入り口の方を見ると、角にサウナらしきものがあり、入っている人がぼんやり見えた。なんだ先客がいたんだと、思いながらもサウナの後のビ−ルを頭に浮かべながら、扉を開けたが、客をみてビックリ。刺青者の兄さんが二人いて、入った途端に鋭い目でにらまれた。邪魔だといわんばかり。以前年配の刺青者と入ったことがあるが、そのときは相手から話しかけてきたりして結構世間話が出来たが、今度のは若い。こういうのは怖いのでかかわりたくない。しかし見てすぐ逃げ出すわけにも行かないので、視線を合わせないように隅のほうでじっとしていたがサウナの汗よりも冷や汗がジワリ。
このお兄さんたちおかしな人達で、一人があわただしく出て行ったと思ったら、水槽に頭からドボ〜ンして、すぐまた戻ってくる。するともう一人が同じくドボ〜ンでまた入ってくる。私は２〜３分で出て体を洗っていると、この間にも出てはドボ〜ンの繰り返しで終わりそうも無い。二人で話をするわけでもない。私はサッと湯船につかって退散した。
あのドボ〜ンはなんだったのだろう。どちらが長くいられるか勝負でもしていたのだろうか？？？
４．東北弁
秋田の飲み屋でカウンタ−に座り、夏が旬だという岩ガキを食べたあと、これも名物の“しょっつるなべ”を注文した。いつもの焼酎の水割りを飲みながら、鍋をつっついていると、店のおじさんがカウンタ−内から、ニコニコしながら東北弁で何か言った。何を聞かれたか解らなかったが、『しょ・・・』という言葉が耳に入ったので、てっきり『焼酎の追加はどうか？』と聞いているのだと思い、『焼酎はまだあるからいい』と言ったら、首を振って“コリャダメだ”というようなそぶりで他の仕事を始めた。隣で飲んでいた人が、通訳してくれた話によると『東京の人は“しょっつる”は癖があって合わないと思うがどうか？』と聞いたとのこと。生臭いが別にまずくも無いので『美味しいですよ』と答えておいた。
岩手に行ったときは相手の重役で東北弁でまくし立てる人がいた。私の説明に対し質問が来るが、半分以上解らず、“勘”で答えたりした。この人、部下にも大声で指示したり、怒ったりする。言われた人はうなずいているので、てっきり解っているのだと思い、『何を言われたんですか？』と聞いてみたら、この方『全然解らないから返事が出来ない』だって・・？これでも仕事は出来ている・・・
５．台風23号の夜
台風23号が中京地区で猛威を振るっているとき愛知県にいた。名古屋からの名鉄特急は遅れてはいたが、なんとか知立駅に着いた。ここからホテルまで３分間くらいだが、強風で傘は壊れるし、ずぶ濡れになるし、よくテレビのニュ−スでみる傘とともに吹き飛ばされそうな光景を体験した。ホテルは超満員でニコニコ。夕食も食べに出られない。駅からの途中にコンビニがあったが閉まっている様子だった。仕方がないのでずぶ濡れのズボンを乾かそうかと思ったら、ズボンプレッサ−もすでに使われてしまってない。考えた末、へヤ−ドライヤ−で乾かし、ついでに水の入った、靴の中に押し込んで廻しっぱなしにしていたら変な臭いが、見ると靴から煙が出ている。まずい！！と、あわてて止めた。なんだかんだしながら腹も空いてきたので、ホテル内に３つあるレストランに行ったが、どこも満席。特に居酒屋風の店は、中日ドラゴンズ優勝記念割引とかでおでんが半値だったので空き席待ちの行列が出来ていた。結局一番空いていた中華店で我慢した。明くる日は一宮泊まりで、この日もホテルの食堂へ行ってみた。店が空いていたのでアルバイトのねえちゃんが話し相手をしてくれた。昨日はやはり台風の影響で超満員で大変だったそうだ。世の中良くしたもので、台風で商売にならない店もあるし、忙しくなる店もある。このおねえちゃん忙しくてもアルバイト代は同じなので、今日のほうが言いといっていた。ごもっとも、ごもっとも・・・
６．夕食は自販機
夜遅く客先で紹介してくれた宿に着いた。町から外れた山林の中の公共の宿。早速チェックインし、誰もいないお風呂で手足を伸ばして、ヤレヤレビ−ルで食事と思ったら、レストランが閉まっている。聞けば夕食は予約だそうで、従業員が帰ってしまったので軽食も出来ないとのこと。外は真っ暗で食事の出来るところまでは車で２０分ほどかかる。タクシ−は町から呼ぶので時間がかかるとそっけない。こちらは3時間もかかって移動してきて腹ペコなのだ。そうと解っていれば途中で食事してくるのだが、いまさらどうしようもない。仕方がないので自販機にいきビ−ルと乾きもののつまみで我慢した。ア〜アッ！
大浴場、広い和室でもこういうことがある。なかなか３拍子はそろわない。
７．お札
ホテルでは禁煙室を希望する。指定された部屋に行くと扉に『禁煙室』と張ってある。中に入るとやたらヤニ臭い。多分あれは『禁煙室』の札を貼ったり、とったりしてお客をごまかしているのではないかと思う。私は入室したら最初に窓を全開して空気を入れ替えることにしている。
臭いといえば、やたら消毒臭い部屋に泊まったことがある。満員だったのか案内されたのはだだっ広いツインル−ムだった。ホテルの内装は白が基調でまるで病院に泊まっているみたいだ。定期的に消毒でもしているのだろうと思って、ベットに横になった。たいていベットの脇には絵画か写真が飾ってある。ここは頭の上に風景画があった。なんとなく曲がっているので直そうとしたら、絵画の裏に“お札”が張ってある。ここの支配人は信心深い人なんだな〜と思いながら寝てしまった。帰ってから職場の人に話をすると『それはきっと殺人事件か自殺者があった部屋で、夜中に金縛りに会わなかったか？』と聞かれゾ−ッとした。以来絵画とか写真の裏は見ないようにしている。見たら眠れないもんね！！
８．指し値の宿
ビジネスホテルはシャワ−と決まっている。あれは夏はいいが汚れたときとか、疲れたときはイマイチいただけない。私は出張日まで日数があればネットで和風の旅館を探す。出来れば温泉のほうが広いし、ゆっくりできる。時には旅行でもしている気分になる。調べてみると、大体お二人以上とか一部屋いくらとか表示されている。一人では効率が悪いのか歓迎されないのだ。福島のいわきに行ったとき、湯本温泉の旅館に格安で泊まった。
ネットで偶然見つけた宿だが、一人でも歓迎とあったので申し込み、ご意見欄に冷やかし半分で『安サラリ−マンがビジネスで行くので二食付き1万円前後にしてください』と書いた。相場は2万円前後の宿なので期待していなかったら、『お待ちしています』の返事が来た。行ってみると立派な温泉宿で大浴場は、豊富な湯が流れるかけ流しの湯だった。しかも夕食、朝食とも部屋食。ゆっくりと浴衣でチビチビ熱燗をいただいた。さて値段は希望通り酒代別で1万円だった。ラッキ−！！これで味をしめて他の温泉地でも試みているがいまだ希望の宿にはいき当たらない。
９．デニ−ズ
水戸で泊まったホテルは一階がデニ−ズ、二階以上が客室のビジネスホテルだった。もちろんホテル内にはレストランも喫茶室もない。案内にも“夕朝食は１Ｆデニ−ズで・・・”と書いてある。子連れと学生の多いところで食べられるもんかと、夕食は外で食べたが、朝食は24時間営業のデニ−ズに行った。朝食はホテルだと大体７時からだが、ここは24時間なので私の生活習慣の6時に食べられるのがよい。どうせデニ−ズだからパンとかハンバ−グだろうと思っていたら、朝食メニュ−なるものがあって、開いてみると“アジの開き定食”とか“鮭の塩焼き定食”などがある。私はすぐアジの開きを注文した。なんとアジ以外に納豆、のり、おしんこのついた普通の和食だった。しかし飲み物はコ−ヒ−、ジュ−スのドリンクバ−で日本茶の無いのが物足りなかった。食べ終わってから店を出ようとするとなんとなく焼き魚らしい朝の臭いがした。デニ−ズで“魚を焼く臭い”想像できますか？
１０．駅は町の顔
宿泊地では雨が降らない限り朝の散歩をする。夕方早く着いたときも町を見学して歩く。美濃に行った時は、“うだつの町”が見たくて、朝5時に起きて暗い中を2時間ほど歩いた。気仙沼では魚市場を見に行ったが途中で雨になり、ずぶ濡れでホテルに戻ったことがある。出張先では車でホテルまで送ってくれることが多いので、そんなときは駅を見に行く。駅は町の顔なので出来るだけ見ておこうと思っている。網走には刑期を終えた人が、再出発のとき、まっすぐ生きるようにと、願いを込めて書いたと、何かで読んだことがある縦書きに几帳面に書かれた看板を見にいった。山口は新幹線も止まる大きな駅だが、時間に任せて、反対側に行く陸橋を渡った。たまたま夕日が沈むときで、茶色い昔の列車が停車中で、その先の空が夕日に染まっていた。昔大田区に住んでいた頃の蒲田駅を思い出し『うゎ〜きれいだな〜』と思わずつぶやいてしまった。これを聞いたのか通りがかりの女性が話しかけてきた。昔見た光景だなどと話しているうちに、店に来ないかと言う。スナックの経営者でこれから店を開けるという。どうせ暇なので行ってみると、普通のスナックで、ビ−ルを飲みながら世間話をした。どこか解らないが東のほうの出身らしい。炭、たどん、練炭などから、まずかった給食、昔の映画の話などで1時間ほどいた。客が入ってきたので、また来ますと言って退散した。外へ出ると狭い路地で、特に酔った覚えもないのに、方向がわからなくなり、どうしても駅に着かない。30分ほど歩き回った末に結局タクシ−でホテルに戻った。あれは狐か狸に馬鹿されたのかも知れない？？店もどこにあるのか解らない。
04-11-20記
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